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京都地方裁判所 昭和62年(ワ)121号 判決

原告

村井俊之

安岡豊

金本良宣

小林智恵子

金水政佳

右原告五名訴訟代理人弁護士

中尾誠

杉山潔志

被告

株式会社京都福田

右代表者代表取締役

福田稔

右訴訟代理人弁護士

臼田和雄

木村五郎

主文

一  被告は原告村井俊之に対し、金二、三〇七、九九三円及び内金一八一、四六五円に対する昭和六〇年二月一日から支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告安岡豊に対し、金二、九六六、一〇一円及び内金三〇四、三二一円に対する昭和六〇年二月一日から支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は原告金本良宣に対し、金一、〇〇四、九〇八円及び内金一五六、三六四円に対する昭和六〇年二月一日から支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は原告小林智恵子に対し、金五五四、八七三円及び内金一五二、八五九円に対する昭和六〇年二月一日から支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

五  被告は原告金水政佳に対し、金六六七、七二九円及び内金五一、二四七円に対する昭和六〇年二月一日から支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

六  原告金水政佳を除く原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

七  訴訟費用は被告の負担とする。

八  この判決は第一項ないし第五項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告村井俊之に対し、金二、九八八、九五四円及び内金二四九、七六〇円に対する昭和六〇年二月一日から支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は原告安岡豊に対し、金三、六七七、〇八四円及び内金三七〇、四二八円に対する昭和六〇年二月一日から支払い済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

3  被告は原告金本良宣に対し、金一、二八七、〇三五円及び内金二〇三、四四九円に対する昭和六〇年二月一日から支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

4  被告は原告小林智恵子に対し、金六五〇、五三七円及び内金一八〇、一三三円に対する昭和六〇年二月一日から支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

5  被告は原告金水政佳に対し、金六六七、七二九円及び内金五一、二四七円に対する昭和六〇年二月一日から支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

6  訴訟費用は被告の負担とする。

7  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告

被告は生コンクリート(以下「生コン」という。)製造販売等を目的とする株式会社であり、約一二〇名の従業員が勤務している。本社は肩書地に所在し、東京都千代田区平河町一丁目八番二号に東京支店、京都市西京区大枝西長町二番地一六六に京都工場、京都府城陽市富野長谷山一番地の二六一に城陽工場、兵庫県氷上郡青垣町東芦田沓抄二七一番地に兵庫工場がそれぞれある。

2  原告ら

原告らはいずれも被告に雇用され、別表(略)三の「勤務部署」欄記載の事業場においてそれぞれ同表の「勤務年月」欄記載の期間勤務していた。

3  時間外労働の実態

被告における所定就業時間は別表六のとおり定められているが、被告は原告らに対し、次のような場合に個々具体的に時間外労働を指示した。

(一) 被告の行う本社連絡会議や設備管理会議等の社内会議は、会議出席者が予め定められているが、これらの会議は概ね午後四時以降に召集、開催されることとなっており、会議の出席者は終業時間経過後も会議が終了するまで拘束されることとなる。

(二) 毎年春と秋に行われるブリジストン展示即売会は、営業部に属する従業員と企画管理部または総務部からの応援の従業員によって担当することとされているが、右展示即売会の期間は、午後八時まで仕事をするように指示されている。また、展示即売会の準備は、その何日か前から行われ、準備のために残業を指示されている。

(三) 営業関係では被告の定めた電話当番制度があり、当番になった従業員は終業時間後も、会社に残らなければならないよう指示されている。

(四) 総務の仕事では、事故処理担当の従業員は、被害者との示談交渉等について、上司から就業時間外の示談交渉を指示されることもある。

(五) 生コンや骨材を扱う工場関係の仕事については、午前五時の出勤を命ぜられたり、終業時間後に生コンを出荷する場合に時間外の労働を指示される。また、建築現場での生コン納入に立会うデリバリーの仕事は、生コン納入が終業時間外に行われる場合はもちろん、交通事情等で生コン納入が遅れた場合でも、原則として最後の納入まで立会うよう被告から指示されており、時間外労働となることがしばしばである。この時間外労働をするのは、日給月給者と管理職だけではなく、月給者の課員も従事している。

(六) 以上、指示したもの以外にも、原告ら労働者が被告から個々具体的に時間外の労働を指示されることは、数多くある。

また、被告から一定の処理基準を定められて仕事をする場合としては、例えば営業二課で担当している保険業務がある。保険取扱業務は、保険契約数や処理期限との関係で、決められた日までに処理する必要があり、一日の就業時間内で処理できない場合、保険担当者は時間外労働を強いられることとなる。

以上、いずれの場合も、被告は具体的な指示または一定の処理基準を定めて仕事をさせることによって、原告らに時間外労働を行わせてきたものである。

休日出勤についても、被告の指示で行っており、その場合、被告は振替休日として具体的な月日を指示したことはない。なお、本件訴訟では、振替休日のなかった休日出勤のみ法外時間外賃金の請求をしている。

4  法内時間外労働時間

原告村井俊之(以下「村井」という。)同安岡豊(以下「安岡」という。)同金本良宣(以下「金本」という。)同小林智恵子(以下「小林」という。)及び同金水政佳(以下「金水」という。)は、右3に述べた状況により、別表一及び別表二の各人の欄の「法内」欄記載の時間、それぞれいわゆる法内時間外労働をせしめられた。なお、この労働時間は午後五時から同五時三〇分の間の時間につき、別表一はタイムカードに記載された時間に基づき、別表二はタイムカードに記載されていない労働時間について届書に記載された時間に基づき、それぞれ計算したものである。

これは労働基準法(以下「労基法」という。)三二条規定の労働時間を越えるものではないが、別表六の労働時間を越えるものである。

5  法外時間外労働時間

原告らは、右3に述べた状況により、別表(略)一及び別表二の各人の欄の「法外」欄記載の時間、労基法三二条規定の労働時間を越える、いわゆる法外時間外労働としてそれぞれ労働せしめられた。原告らはいずれも労基法四一条の適用を受けるものではない。

なお、右の法外時間外労働時間数は、別表一はタイムカードに記載された時間に基づき、別表二はタイムカードに記載されていない労働時間について届書に記載された時間に基づき、次の(一)ないし(三)の基準に従って算出したものである。

(一) 本社

〈1〉 平日午前(午前八時三〇分以前)については、実際早朝営業会議等時間外労働部分があるが、算入しない。

〈2〉 平日午後(午後五時三〇分以降)については午後五時三〇分から退勤までの時間を算入する。

〈3〉 休日、祝日については午後一時前に退勤している場合は、出勤から退勤までの時間を算入する。また、午後一時以降に退勤している場合は、昼休み(休憩)分として一時間控除し、出勤から退勤までの時間を算入する。

(二) 城陽工場の生コン部門(原告金水関係)

〈1〉 平日午前(午前八時以前)については午前七時三〇分前に出勤した場合は、出勤から午前八時まで三〇分単位で算入し、三〇分未満については切捨て計算する。午前七時三〇分以降に出勤した場合は時間外労働に算入しない。

〈2〉 平日午後(午後五時以降)については、午後五時から退勤までの時間を算入する。

〈3〉 休日、祝日については、本社の場合((一)、〈3〉)と同様に計算する。

(三) 城陽工場の骨材部門(原告村井の城陽工場勤務時関係)

〈1〉 平日午前(午前七時以前)については、午前五時前に出勤した場合は、午前五時から午前七時まで、一日につき二時間として算入する。午前五時以降に出勤した場合は算入しない。

〈2〉 平日午後(午後四時以降)については午後四時から退勤までの時間を算入する。

〈3〉 休日、祝日については、本社の場合((一)、〈3〉)と同様に計算する。

6  賃金額

別表三の「勤務年月」欄記載の期間における従業員に対する賃金支払方法は毎月一五日締切り二五日支払いである。原告らと被告との雇用契約において約した一か月当りの基本給及び諸手当たる賃金の内、労基法三七条二項、同法施行規則二一条規定の割増し賃金の基礎となる賃金は同表の「所定内賃金月額」欄記載の金額である。但し、食事手当は各月で変動するので、計算上の便宜のため個々の期間内の食事手当の合計額を月数で除した金額を各月の食事手当として別表三の所定内賃金に含めた。

そして、被告の本社における所定就業時間は前記のとおり別表六のとおり定められている。したがって、総務部、営業部、企画管理部勤務者についての法内時間外労働に関する一時間当りの基礎賃金額は、労基法施行規則一九条一項四号の規定に基づき次の式に基づいて算出することになり、その金額は別表三の「法内時間外労働」欄の「一時間当り基礎賃金額」欄記載の金額となる。

〈省略〉

また、同表の城陽工場勤務者についての法内時間外労働に関する一時間当り基礎賃金額は、次の式により算出することになり、その金額も同表の「法内時間外労働」欄における「一時間当り基礎賃金額」欄記載の金額となる。

〈省略〉

法外時間外労働の一時間当り基礎賃金額は、同表の「法内時間外労働」欄の「一時間当り基礎賃金額」欄記載の金額に労基法三七条一項規定の一・二五を乗じたものであり、その金額は同表の「法外時間外労働」欄の「一時間当り基礎賃金額」欄記載の金額となる。

7  附加金

被告は原告らの法外時間外労働賃金の支払いを全くしない。これは労基法三七条に違反するから、原告らはそれぞれ法外時間外賃金額と同一額の附加金の支払を請求する。

よって、原告らは被告に対して、それぞれ別表四の「法内時間外労働賃金合計額」欄記載の金員及びこれらに対する訴状送達の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による金員、並びに同表の「法外時間外労働賃金合計額」欄及び同表の「附加金」欄記載の金額の合計額である同表「法外時間外分合計額」欄記載の金員の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(被告)及び2(原告ら)の各事実は認める。

2  同3(時間外労働の実態)の事実中、所定労働時間は別表六のとおり定められていること、原告らが休日出勤したとき被告は振替休日を具体的に指定していなかったことは認める。振替休日を取ることは従業員の自主性に任せていた。被告は原告らに対して時間外労働を命じたことはない。

3  同4(法内時間外労働時間)の事実中、タイムカードに基づいて計算すれば、別表一記載の法内時間外労働時間数となることは認めるが、それが労働時間であることは否認する。その余の事実は否認する。

4  同5(法外時間外労働時間)の事実中、原告らが労基法四一条の適用を受けるものでないことは認める。原告主張の基準に従ってタイムカードに基づき計算すれば、別表一記載の法外時間外労働時間数となることは認めるが、それが労働時間であることは否認する。その余の事実は否認する。

5  同6(賃金額)の事実中、従業員に対する賃金支払方法は毎月一五日締切り二五日支払いであること及び被告における所定就業時間は別表六のとおり定められていること及び一時間当り基礎賃金額の計算方法は認める。別表三の「所定内労働賃金月額」欄及び「一時間当り基礎賃金額」欄記載の金額の内、原告村井及び同安岡の昭和五九年九月一六日以降の金額は否認し、その余の右各欄の金額は認める。

6  同7(附加金)の記載中、被告の附加金の支払義務は争う。

三  抗弁

1  降格処分

原告村井と同安岡は、昭和五九年九月の人事移(ママ)動で主任の職を解かれ、それぞれ企画管理部員、営業一課員となった。そのため金四〇、〇〇〇円の主任手当の支給がなくなった(同年九月一六日以降の、原告村井の所定内賃金月額は金二〇五、五三三円、原告安岡の同所定内賃金月額は金二〇三、四六七円である。)。

2  時効

昭和五七年一二月一五日以前の時間外労働賃金請求権は、請求権発生後、既に二年を経過している。被告は本訴において右時効を援用する。

四  抗弁1(降格処分)に対する認否

認める。

五  再抗弁

1  不当労働行為

原告らは京都福田労働組合に加入していたが、抗弁1の降格処分は、組合活動の中心となっていた原告村井(組合委員長)、同安岡(組合副委員長兼書記長)を降格することによって組合活動に打撃を加えるために行われた不当労働行為であり、その降格処分は無効である。したがって、一時間当りの基礎賃金額算定の際には降格処分以降も主任手当が支給されているものとして算定すべきである。

2  時効の中断

京都福田労働組合執行委員長である原告村井は、被告に対して次のとおり本訴で請求している時間外労働賃金の請求をした。これにより、組合員である原告ら全員の時間外労働賃金の請求がなされたことになる。そして、原告らは、昭和六〇年一月二三日、右時間外賃金の請求を求めて本件訴訟に及んだ。

(一) 昭和五九年七月一三日、「要求書」により請求し、被告は同日右書面を受領した。

(二) 昭和五九年八月九日、「団体交渉に関しての質問状及び要求書」により請求し、被告は同日右書面を受領した。

(三) 昭和五九年八月二九日、京都地方労働委員会に団体交渉促進の「あっせん請求書」を提出し斡旋申請をすることにより請求した。

(四) 昭和五九年九月一七日、「団体交渉申入書」により請求し、被告は同日右書面を受領した。

3  時効援用権の濫用

被告は給与支払明細書の時間外賃金欄に金五、〇〇〇円と記入し(これは時間外賃金ではない。)、時間外賃金を支払っているかの如く装って労働者の時間外賃金要求をごまかし、これまで一貫して時間外労働賃金を支払わず、労働組合が結成され、原告らが時間外賃金の請求を行うや、組合員から仕事を取り上げ、降格や解雇を行う等の不当労働行為を繰り返してきた。このような被告が時効援用を行うことは、権利の濫用であって到底認めることができない。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1(不当労働行為)の事実は否認する。

2  再抗弁2(時効の中断)については争う。請求権の催告は請求権を行使する権能を有するものによって行われなければならない。労働組合は個々の労働者の労働契約上の請求権の催告を組合の名で行使することはできない。

3  再抗弁3(時効援用権の濫用)については争う。

七  被告の主張

1  タイムカード

時間外労働賃金は、上司の時間外労働を命じる業務命令がある場合か、黙示的にその業務命令があったものとみなされる場合で、かつ使用者の指揮命令下においてその命じたとおり時間外労働がなされたときにのみ、支払われるべきものである。そして、タイムカードの出勤時の打刻時が所定労働時間の始期のそれより早い場合、それが直ちに使用者の指揮命令下に入ったとされるものではない。これと同様、退出時のタイムカードの打刻時が所定労働時間の終期より遅かったとしてもそれが直ちにその時刻まで使用者の指揮命令下にあったとされるものではない。

例えば、被告では会社の残業命令により会社に残る場合でない時でも、従業員は一旦タイムカードを打刻することはなく、最後に退社する時に初めて打刻するのが常であった。集団や単独で勉強し、稽古事を行う等の私用で会社に残る場合、その前に一旦タイムカードに打刻し、再び戻るというようなことは一般に行われていなかった。被告ではお華同好会や宅地建物取引主任試験の勉強会が週に一回行われていたが、こうした時も一旦タイムカードの打刻が行われることはなく、右同好会や勉強会が終了した後に初めてタイムカードへの打刻が行われている。

そして、原告村井につき届書の内容がタイムカードに転記されていたとしても、それは原告村井が自記したものであり、上司による確認を経たものではなく、これをもって時間外労働の業務命令があったものということはできない。また、届書に記載された時刻をタイムカードに必ず転記するものでもなく、タイムカードで時間外労働を管理していたものではなかった。したがって、原告は業務命令に基づき何時いかなる業務につき残業したのかをタイムカード以外の方法で明らかにするべきである。

2  届書

被告は、時間外労働については従業員が届書に記載し、上司の承認を受け、所属長印の押印を受けることにより、届書で時間外労働を管理している。届書に記載されることによって、その残業等の業務の内容が確認されるものである。

工場においてもその残業の業務命令とそれによる実際の残業の確認は、時間外労働日報または残業申請書によって行われていたものであり、タイムカードによっているものではない(なお、工場での時間外労働を日給月給者以外の者が行う場合は管理職がこれを行うこととなっているので、工場での管理者以外の月給者による時間外労働はない。)。

なお、原告らが従来から被告に提出している届書は時間外労働の時刻が不明であったり、出張の所在の記載を欠くものが殆どであり、この様な不明確な届書に基づいては時間外労働手当を支払ってはいなかった。

八  原告らの主張

1  タイムカード

原告ら被告の従業員は、終業時間終了後は用のない限り退社することを義務付けられており、その際には、タイムカードに打刻するよう定められている(就業規則三六条)。そして、原告らは、右就業規則に基づいて、会社の仕事が終了し次第退社し、その際にタイムカードを打刻している。したがって、タイムカードの「退」の欄の打刻時間は、退社時刻を示すものである。

被告はタイムカードが退社時刻を正確に示していない例として、お華同好会や勉強会を挙げているが、原告らは本件時間外賃金請求期間内にお華同好会に所属していた者はいない。また、原告村井は宅地建物取引主任試験勉強会に参加していたが、その期間は昭和五五年であり、本件訴訟で請求している時間外労働を行った期間の前である。

2  届書

被告は時間外労働の管理はタイムカード以外の文書である届書によって行っている旨主張する。しかし、

(一) 届書には時間外労働を記入するべき欄がないから、届書は時間外労働の時間を明らかにすべき文書としては作成されていない。また、被告は従業員に対し、届書に時間外労働の記入をするような指示はしていない。

(二) 届書の直行、直帰等の記載がタイムカードに転記され、届書に時刻が記載されている時は、その時刻もタイムカードに転記されている。この転記は被告の時間管理の業務としてなされているものであり、転記されたタイムカードの部分には転記担当の総務課員の押印がある。

したがって、届書はタイムカードを打刻できない場合等の勤務の状況を把握するためのものとして、タイムカードを補充するだけのものとして利用されてきた。

そして、被告は時間外労働賃金を支払うための要件として〈1〉届書による手続、〈2〉届書への時間の明確な記載、〈3〉届書への所属長の確認印をあげている。しかし、この要件を満たしている届書による時間外労働、休日出勤についても、時間外労働手当は一切支払われていない。

なお、被告は残業確認がタイムカードではなく残業申請書によってなされている工場での例を出しているが、これらは全て従来から時間外賃金の支払われている日給月給者である。しかも、その例は被告が就業規則を改正し、残業申請の届出を強化した昭和六〇年一月以降のものである。

第三証拠(略)

理由

一  当事者間に争いのない事実

請求原因1(被告)及び2(原告ら)の各事実、原告らが休日出勤したとき、被告は振替休日を具体的に指定していなかったこと、原告らが労基法四一条の適用を受けるものでないこと、被告の従業員に対する賃金支払方法は毎月一五日締切り二五日支払いであること、被告における所定就業時間は別表六のとおり定められていること、原告の一時間当り基礎賃金の計算は請求原因6(賃金額)記載の方法で計算すること、原告村井、原告安岡の昭和五九年九月一六日以降以外の原告らの所定内賃金及び一時間当り基礎賃金額が別表三の「所定内賃金月額」欄及び「一時間当り基礎賃金額」欄記載の各金額のとおりであること、並びに抗弁1(降格処分)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  時間外労働の実態

(証拠略)によれば、次の事実を認めることができ、(人証略)の内、次の事実に反する部分は右各証拠に照らし措信しえない。

1  被告は毎年、年二回、被告と取引のある会社のスポーツ用品を被告の本社の六階に展示し展示即売会を開催していた。この展示即売会は営業部、企画管理部及び総務部の従業員が担当していたが、開催時間は二日間午前一〇時から午後八時まで行われ、午後五時以降については、各部の課長等が各課員に対し展示即売会に従事するよう口頭により指示し、多数の課員が時間外労働を行っていた。また、展示即売会の準備は何日も前から行われ、この準備においても右と同様管理職からの指示で課員が時間外労働を行っていた。

2  被告には社内会議規則があり、同規則により、管理部門会議、設備管理会議、運輸部門会議、技術部門会議、本社連絡会議及び安全衛生会議の六つの会議が社内会議として位置付けられ、その各会議の構成員となった者は特例の理由がない以上出席しなければならなかった。そして、それらの各会議の構成員は常務会で決定され、管理職以外の課員も各会議にそれぞれ数名ずつ構成員とされていた。それらの会議の開催時間は、管理部門会議以外の会議は全て所定内労働時間外に及んでいた。また、営業部の各課では週に一回営業会議が開催されていた。その召集は各課長が行い、開催時間は午後四時頃か午後五時頃から午後七時頃に及び、常に所定内労働時間を越えていた。

3  昭和五九年七月頃から約三か月間、被告は営業部において居残り当番制をもうけていた。これは、各課員らの内から一人を当番に当て、所定労働時間外である午後五時から午後六時三〇分まで、得意先からの電話の応対をさせるというものである。この当番にあたれば、必ず午後六時三〇分まで会社に残らなければならなかった。そして、原告安岡も何回かこの当番として午後六時三〇分頃まで残業をした。

4  原告安岡は昭和五七年四月頃から、昭和五九年九月頃までの間、保険業務に従事していたが、日常の業務が多量であるうえ、客との交渉において客が就業時間後を指定する場合や、更新時の保険が多数あるときは就業時間後も労働をすることが多くあった。また、昭和五八年の夏、保険業務を手伝っていた女子従業員が退社したため、その後の保険業務は原告安岡一人で全てを行うこととなり、仕事量は著しく増大し、残業も増大した。

5  原告安岡は昭和五九年九月から営業一課へ配転され、専ら生コンの納入の現場立合い(以下「デリバリー」ともいう。)の仕事をするようになった。デリバリーは、生コンの納入先の業者の都合や交通事情によって生コンの納入が遅れたときは納入が終るまで午後六時から午後九時頃まで現場に残ることも多数回あり、また、所定の始業時間前の早朝のデリバリーも行われることもあった。このような生コンの納入の立合いはその度に課長が各課員に明示の指示を出した。

6  原告村井は昭和五八年三月まで、またその後は原告金本がそれぞれ総務部総務課に配転された。その課では被告車両の交通事故の処理を行っていたが、その仕事は被害者、加害者らとの示談交渉が中心であった。また、住宅地域にある工場の周辺住民との交渉等も行っており、これらは所定の終業時間後に行われることが多かった。また原告金本は訴訟関係の打ち合せも行っていたが、総務部の岡田次長から所定の終業時間後に及ぶ打ち合せを命じられることが多かった。

7  原告小林は総務部業務課に属していたが、この課では請求書の発送を取引先の指定する締切日に間に合わせるよう指示されていたため、業務は所定の終業時間外に及ぶことが多くあった。

8  原告村井は昭和五八年八月から企画管理部に配転されたが、この部では、前述のスポーツ用品の展示即売会を催し、その準備及び展示即売会の立合いは所定労働時間外に及んでいた。また、日本道路公団等が被告のプラントの公示検査を行うときは被告はその前に検査の練習を行ったが、その練習は所定労働時間後プラントが停止しているときに行い、原告村井はその応援にも従事した。

9  原告金水は城陽工場管理課の配車係に従事していたが、そこでは取引先からの生コンの材料の配合の注文を聞き、それを工場の操作員に連絡し、注文の生コンが練り上がるとミキサー車の運転手を呼出し、配送先を指示して伝票を渡すという業務を行っていた。そして、最終の配送ミキサー車が帰着したことも確認しなければならなかった。したがって、納入先の都合や交通事情で納入が遅くなると、当然ミキサー車の帰着も遅くなり、業務は所定終業時間を越すことになり、また、所定終業時間前の配車の時は配車係も始業時間前に仕事に着かなければならなかった。

10  被告の代表取締役は、午後五時頃から午後六時三〇分頃に従業員の部屋にきて、既に従業員が帰ったりして空いた机があると「何で帰ったやつがおるんや。」等ということがあった。

11  被告では午後七時以降も仕事をする従業員の為に、被告の費用において毎日午後六時頃から午後六時三〇分頃に各課においてラーメンやチャーハン等の食事の注文を取り、残業食という名で食事を出していた。

12  被告では、プラント周辺の清掃のため営業部の課員に対し休日出勤を命じたり、また、毎月一回日曜日に社屋の清掃を行い、総務部がその立合いをしていたが、原告金本は隔月に一回位の割合で日曜日に右立合いをさせられていた。

そして、被告の従業員が休日に出勤した場合自ら振替休日を取ることはほとんどなかったのであるが、一方被告もその場合に振替休日を指定することをせず、逆に休日出勤しても一か月経過すると振替休日を取る権利を認めないと従業員に申し渡していた。

以上の事実によれば、被告は原告らに対し、展示即売会、諸会議、プラント検査の準備等において具体的な指示を与えて所定労働時間外の労働を命じたり、また、保険業務、デリバリー、ミキサー車の配送、その他の各業務において一定の処理基準を定め、その基準によれば当然所定労働時間外の労働を行わなければならないような労働を命じることが多くあったことが認められる。そして、代表取締役は従業員が常に所定労働時間外に労働することを当然のことと考えていたことが窺え、残業食についても、私用で会社に残っている従業員に毎日被告の費用で食事を出すとは考えられないから、被告は残業を日常のこととして制度に組入れて、毎日残業食を出していたものと認められる。これらの点に加え、(証拠略)によれば、原告村井、原告安岡、原告金本らはほとんど毎日のように午後六時頃や午後七時頃まで会社に残っていたことが認められ、このように継続的に終業時刻後も退社せず私用で残っていることは特段の事情でもない限り通常認め難いことであり、右特段の事情を認むべき証拠はないから、これらは残業を行っていたものと推認できる。これらのことを併せ考えれば、被告においては残業は日常的に行われていたことが認められる。

三  タイムカード

(証拠略)によれば、次の事実を認めることができる。

1  被告の就業規則三六条には被告の従業員は所定終業時間終了後は用のない限り退社しなければならず、その際にはタイムカードを打刻することが義務付けられていた。そして、原告らは退社時及び出社時はほぼ毎日タイムカードを打刻していた。

2  被告の従業員は終業後、社内において生花の練習や宅地建物取引主任の受験勉強会を催すことがあり、そのような場合、参加した従業員は生花の練習や勉強会が終った後初めて退社のタイムカードを打刻していたが、本件訴訟における時間外労働賃金を求めている期間内においては、原告安岡は右の生花の練習や勉強会に参加していなかった。また、原告安岡以外の原告らも右生花の練習や勉強会に出席していたことを認めるに足りる証拠はない。

3  被告の従業員が本社に寄らず直接社外の仕事の現場へ行ったり、あるいはその現場から直接帰宅する場合は届書に「直行」「直帰」と記載し、それを被告へ提出していた。届書が提出されると、本社では総務課でタイムカードに「直行」「直帰」と転記していた。なお、届書には現場での始業、終業時刻を記載することはほとんどなく、仮に所定労働時間を超える始業、終業時刻が記載されていても、総務課ではその時刻をほとんどタイムカードには転記せず、被告は所定労働時間に始業、終業したものとして扱っていた。また、タイムカードの押し忘れの場合にも届書が提出されていたが、この場合にも総務課はタイムカードに所定労働時間の始業、終業時刻を記載し、記載部分には担当者の押印をした。ところが逆に、届書が提出されていないにもかかわらず所定労働時間の始業、終業時刻と異なる時刻が総務課によってタイムカードに記載されている場合もあった。これは従業員からの口頭による労働時間の申出に基づいて総務課が労働時間をカ(ママ)イムカードに記載したものと推認される。

4  届書は右の直行、直帰の他、出張、欠勤、遅刻、早退等のときにも提出されていたが、そのときは届書に印刷されている直行、直帰、出張、欠勤、遅刻、早退等の事項欄に印をつけるようになっていた。しかし、届書には通常の出勤日における時間外労働について印をつける事項欄がなかった。そして、原告らは通常の出勤日の時間外労働の場合に届書を提出するということはなく、また、被告も時間外労働をするとき届書を提出するようにという指示、指導もしたことはなかった。

右認定のとおり、本件請求の期間に限ってみれば、被告は業務の一環として届書の直行、直帰等の記載をほとんど全てタイムカードに転記してること(但し、始業、終業時刻の記載は転記されていない。)、届書が提出されてなくとも総務課はタイムカードの空白部分にきちんと時刻を記載していること、したがってタイムカードに各従業員の出退時刻がほぼ正確に毎日記載されていること、そして被告が本件時間外労働賃金請求の期間中、タイムカードの他に時間外労働時間を管理するための書面を作成していたことを認めるに足りる証拠がないこと、などからすれば被告はタイムカードで従業員の労働時間を管理していたと認められる。

これに対し、被告は、時間外労働をするときは届書を提出させ、時間外労働の時間を明記させ、所属長の認印をもらった場合だけ時間外労働を命じており、時間外労働はその届書で管理していたと主張する。そして、(人証略)の各証言は右主張にそった内容となっており、(証拠略)によれば、昭和六〇年七月頃、京都工場及び城陽工場において時間外労働を行う場合、残業を申請するため書面を提出する従業員がいたことが認められる。しかし、前記のとおり直行、直帰の場合でさえ届書に正確な時刻を記載しないことが多かったから、届書で労働時間を確認することは著しく困難であったと考えられること、また残業が日常的であったにもかかわらず、原告らが通常の出勤日の時間外労働について申請の届書を提出していたことは認められないこと、そして(証拠略)によれば、昭和六〇年一月、被告は就業規則を改訂し、その五六条四項で時間外労働をする場合は所定の用紙でその旨申請し、所属長の承諾を得なければならないとし、その為の用紙が新たに印刷されたことが認められるところ、残業の申請のための書面である(証拠略)はその就業規則の改訂後のものであるから、この証拠によっては、それ以前に時間外労働の申請が届書によって行われていたことまでは認められないこと、などの点に照せば被告の右主張は採用できない。

四  時間外労働時間数

右のとおり、被告はタイムカードによって労働時間を管理していると認められるから、原告らの時間外労働の時間数もタイムカードによって認定することが相当である。

しかも、前記認定のとおり被告においては残業が日常的であったこと、及び原告らが就業時間後に私用で会社に残っていたことを認めるに足りる証拠はないことに加え、原告安岡の本人尋問の結果によれば被告の従業員は仕事終了後タイムカードを打刻するまでの距離は僅かでありほとんど時間を要しないと認められること及び証人秦の証言によれば、被告の営業している生コン業界は過当競争であり、被告は経営的に相当困難な状況にあったことが窺えるところ、そのような状況にあった被告が、従業員が私用で何時までも会社に残っていることを放任していたとは考えられないこと、などを総合すれば、原告らは、タイムカードに打刻されている時刻まで全て被告の管理の下で労働をしていたものと推認されるから、タイムカードに打刻されている時間は労働時間として十分正確なものであると認めることができる。

なお、原告らは本件請求につき請求原因5(法外時間外労働時間)に記載された基準に従って、タイムカードに打刻されている時間から時間外労働となるかどうか若干不明確である時間を差し引いて請求している。そして、原告安岡の本人尋問の結果によれば、本社では早朝会議に出席するため所定始業時間前に出勤する場合があるが、それはタイムカードの上では仕事の準備の為だけに早く出勤した者との区別が着かないこと、城陽工場の生コン部門では所定の始業時間前の出荷は三〇分単位で早出を指示されるから、所定の始業時間前の時間外労働は三〇分単位で計算することが相当であること、同工場の管理部門では所定始業時間前の出荷は午前五時であるから、それ以前に出勤しても午前五時から労働することになり、午前五時以降に出勤した場合は所定始業時間から労働したとすることが相当であることがそれぞれ認められ、右の請求原因5に掲げられた基準はこれらのことなどに基づいたものであるから、これはタイムカードに記載されている時間からさらに時間外労働時間となる可能性の強い部分を取り出す基準としては合理的であると考えられる。したがって、このような基準で選択された時間数は、原告らが真実に時間外労働を行った時間数であるということの推定をさらに強く受けると考えられる。

以上より、時間外労働時間数はタイムカードによって立証し得ると解される。したがって、被告は時間外労働の時間の立証につき種々主張しているがそれらの主張は採用しない。そして、(証拠略)の各タイムカードに基づき、右の基準に従い、昭和五七年六月一六日から昭和五九年一二月一五日までの間の原告らの時間外労働の時間数を算出すれば、原告ら主張のとおり別表一記載の「法内」及び「法外」の各欄記載の各時間数となる(この計算結果については当事者間に争いがない。)。

また、届書に正確な始業、就業時刻が記載されている場合は、これに基づいて時間外労働を算定することは被告も認めるところである。そして、(証拠略)のタイムカードによれば、届書に正確な労働時間が記載されているにもかかわらず、タイムカードに転記されていない時間外労働が認められ、それらに基づけば、タイムカードに基づいて認定した時間外労働以外にさらに別表二記載の時間外労働を認めることができる。但し、原告村井の昭和五七年七月分(同年六月一六日から同年七月一五日の間)及び昭和五八年九月分(同年八月一六日から同年九月一五日の間)の届書は証拠として提出されていないから、この部分の届書に基づく時間外労働は証明がなく、したがって別表五の(一)の各「賃金額」欄記載の金額の請求は認められない。

五  降格処分について

(証拠略)によれば、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

1  昭和五九年四月一一日被告は、原告金本を、同人が同月二日、人事移動の辞令書を破棄したことを理由として解雇した。そこで、原告金本を支援するとともに、被告内での労使関係の近代化、労働条件の向上等を目的として、京都福田労働組合(以下、単に組合という。)が結成され、原告村井が執行委員長に、原告安岡が副執行委員長兼書記長に、訴外金井綾子外三名が執行委員に選出され、原告金本もこの頃右組合に加入した。当時、原告村井は企画管理部主任であり、原告安岡は営業部営業二課主任であり、訴外金井は総務部経理課主任補佐であり、前の二人は一か月金四〇、〇〇〇円の、訴外金井は一か月金一五、〇〇〇円の役職手当の支給をうけていた。

2  同年六月六日、右組合は被告に対し結成通知をし、同月七日、被告の駐車場付近で原告村井、原告安岡らの組合員が組合ニュースを配付したところ、同月九日、取締役営業部長福田俊夫(以下「福田営業部長」という。)は、営業部における早朝会議の席上原告安岡を叱責し、「ボーナスできっちり査定してやる。」と発言した。

3  同月一九日、原告村井、原告安岡、原告金本らが、午前八時過ぎ頃、本社門前の路上でビラを配付していたところ、出社してきた福田営業部長が、いきなり原告金本の頬を殴打し、それを止めようとした原告村井のネクタイをつかんで押しつける等の行為を行い、「おまえら子供ら集めて何さらしとるんじゃ。」などと言った。ビラ配付後、原告村井及び原告安岡が福田営業部長の言動について秦総務部長に抗議していると、そこへ福田営業部長がやってきて、原告村井らに対し、「おまえら、どこの会社にきてやっとるんや。管理職でなかったらなにもいわん。おまえら二人は許さん。」と発言した。

4  組合結成後の初めての定期人事移動が同年九月一日になされたが、その人事において、被告は、事前に組合へ打診したり、話合いをすることもなく、原告村井を主任から降格し、原告安岡を主任から降格したうえ同部営業一課へ配転し、訴外金井を主任補佐から降格したうえ総務部総務課に配転した。したがって、同人らは前記の役職手当を失うこととなった。

5  原告安岡は昭和五四年一月九日に入社し、営業二課の主任になるまでに、生コンの販売を担当したことがあったが、そのときは同原告は大手の会社と初めて生コンの納入契約を成立させた他、多数の中小の会社との契約に携わった。また、昭和五七年四月に営業二課の主任になった後は石油や保険の営業において実績を上げた。そして、主任に昇格したのは営業部内ではやや早いほうであった。ところが、昭和五九年九月原告安岡が配転された営業一課は生コンの販売を業務としていたが、原告安岡は生コンの納入の現場立合いだけを命じられた。これは主として新入社員が担当する仕事であった。そして、営業一課では生コンの営業経験がなくとも得意先が割当てられることもあったが、原告安岡に対しては全く得意先は割当てられなかった。

6  昭和六〇年四月一七日、被告の代表取締役は原告村井に対し、田次長を通じて、仕事は他の者にさせるから原告村井は毎日就業規則をよむよう指示し、また、同月二二日、企画管理部で座席と電話の配置換えがあったが、その時は原告村井には電話をつけなくてもよいと指示した。

7  訴外金井は総務課へ配転された後は、物品管理の仕事を担当していたが、昭和六〇年五月二七日、総務課の平井主任から使用済みの封筒を再使用するため裏返しにしてのり付けする作業と就業規則を読むことを指示され、昼休み以外における訴外金井の仕事はそれだけになった。なお、それまで使用済みの封筒を裏返したりする作業に特定の担当者が設けられることはなかった。

8  被告は、被告気付で組合宛てに届いた郵便物を、誤って開封してしまうことのないようにという理由で、差出人へ返送したこともあった。

以上の事実に加え、昭和五九年九月の人事移動における原告村井、原告安岡及び訴外金井の降格処分には合理的な理由を認めるに足りる証拠はないこと、及び降格によって役職手当を失うことに対する代償措置が取られたことを認めるに足る証拠はないことを総合すると、被告は、反組合的意図を有し、原告村井及び原告安岡が労働組合を結成し執行委員長及び副執行委員長兼書記長として活動していることを嫌悪して、右降格処分によって同原告らに不利益を与えたものであることが認められる。これは労働組合法七条一号の不利益取扱としての不当労働行為と解せられる。また、このような降格処分は労働組合の活動への抑止的効果を意図したものであり、同条三号の支配介入にも該当するものと解せられる。

したがって、昭和五九年九月一六日以降の原告村井及び原告安岡の所定内賃金は、右降格処分により同年八月分の賃金に比べ月額約四〇、〇〇〇円低くなっているが、右降格処分は不当労働行為であり、これを無効とすべきであるから、原告村井及び原告安岡の昭和五九年九月一六日以降の所定内賃金は前月分の賃金と同額と認めるのが相当である。

六  時効

本件訴訟が昭和六〇年一月二三日に提起されたこと、及び被告が本訴において時効を援用したことは記録上明らかである。したがって、昭和五七年一二月一五日以前の賃金請求権は労基法一一五条により時効が完成している。そして、(証拠略)によれば、昭和五七年一二月一五日以前の時間外労働の時間数は別表五の(二)記載の「時効にかかった法内時間外労働」欄及び「時効にかかった法外時間外労働」欄の各「時間数」欄記載の時間数となる。

七  時効の中断

原告らは、昭和五七年一二月一五日以前の賃金請求権につき、原告らの加入する京都福田労働組合が昭和五九年七月一三日から同年九月一七日にかけて支払いを催告したから時効は中断していると主張する。しかし、労働組合は、組合員からの何等かの授権がなければ当然には個々の組合員の賃金請求権を行使する権限を有すると解することはできない。そして、原告らは、原告らが組合に賃金請求権の行使につき何等かの授権を行ったことの事実の主張及び立証は何等行っていない。したがって、仮に原告らが主張する組合の右行為が認められたとしても、これを時効の中断行為と認めることはできない。

八  時効援用権の濫用

仮に原告の主張する再抗弁2(時効援用権の濫用)の事実が認められたとしても、これらの事実によって原告らの賃金請求権の行使が著しく困難になったとは解せられず、また、被告が時効援用権を行使することによって時効制度の趣旨に反する結果になるとも解せられない。したがって、右事実の有無を判断するまでもなくこの主張は採用できない。

九  結論

以上により、原告らの法内及び法外の各時間外労働賃金の請求の内、別表五の(一)(届書の立証のない時間外労働)及び(二)(時効の完成した時間外労働賃金)の各「賃金額」欄記載の金額を除いた、その余の賃金請求は理由があり、その金額は別表五の(三)(認容部分)の「法内時間外労働賃金合計額」欄及び「法外時間外労働賃金合計額」欄記載の各金額のとおりとなる。また、附加金の請求も時間外労働賃金の支払の違反があった時から二年内に行わなければならないから、その金額も右の認容される法外時間外労働賃金額と同額となるところ、本件では右金額の附加金の支払を命ずるのが相当である。そして、本件訴状が被告に送達された日は記録上昭和六〇年一月三一日であることが明らかである。

したがって、原告らの請求は別表五の(三)記載の「総合計額」欄記載の金員、及び同表の「法内時間外労働賃金額」欄記載の金額に対する昭和六〇年二月一日から支払済みまでの年五分の割合による金員を求める範囲で理由があるから、これらを認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条及び九二条ただし書を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 堀口武彦 裁判官 水口雅資 裁判官 岡文夫)

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